分子免疫生物学研究室
生体で最大の免疫システムが存在する腸管には、莫大な数の腸内細菌が共生しています。近年、この腸内フローラ(腸内細菌叢)がアレルギー、炎症性腸疾患、がん、生活習慣病など実に様々な病気の罹患リスクや発症に関わることが急速に明らかにされてきました。まず、なぜ腸内細菌との共生関係が成り立っているのか、これは、本来免疫の攻撃対象であるはずの大量の異物が排除されずに存在する不思議な現象です。そのしくみを腸管上皮細胞に焦点を当てて遺伝子レベルで調べています。腸管の広大な粘膜面を覆う腸管上皮細胞は、腸内細菌からの刺激を最前線で受けることから、幾重にも張り巡らされた巧妙なしくみで共生を可能にしています。
腸内細菌が免疫のはたらきにどのように影響するか、例えば、免疫の変調によって起こるアレルギーと腸内細菌の関わりについて、アレルギー炎症を引き起こすマスト細胞に着目して調べています。マスト細胞はアレルギーを引き起こすために存在するわけではなく本来は感染防御などの役割を担っていますが、私たちは腸内細菌がマスト細胞のこれらの機能のバランスを調節するのではないかとの仮説を立ててその分子メカニズムを研究しています。
我々の持つ免疫システムは発生した癌に対しても排除する応答を行います。しかし、癌も免疫システムからの監視を回避するために様々な手法(免疫逃避機構)を駆使しています。近年、これらの免疫逃避機構を解除し、本来備わっている免疫力で癌を治療するという試みが注目を集めています。私たちは、腫瘍内部に浸潤している免疫細胞、特に腫瘍微小環境を担っていると考えられている好中球およびマクロファージに注目して、新しい免疫逃避システムの解除方法を検討しています。